先日、カブトムシハウスのスタッフとして野外活動していたとき、家族4人で来ていた子どもから、「カブトムシのエサは、何がいいですか?」と質問されました。
「そうね。リンゴやバナナ、ゼリーがいいかもね」などと話していたのですが、どうやら話を聞いていると、夏休みの自由研究のため、これからペットボトルを使って、カブトムシを捕まえるトラップを仕掛けたいとのことでした。
いい活動だなと思いました。
お父さんも子どもの研究にとても前向きで、親子の交流の時間としても良さそうですよね。
そして、そこに私とペアで担当していた、もう一人のスタッフがやってきて、カブトムシトラップについてご家族に語り出しました。
それは全然良かったのですが、問題はそこからでした。
「難しい」「大変」ばかり言って、子どもの心を折る指導者
このスタッフと私はそれほど面識がなかったのですが、話を聞く限り、昆虫や植物などに詳しい人のようでした。
そこで、カブトムシトラップを仕掛けたい子ども(とお父さん)に対して、色々と知識を語り出したわけです。
でも、その話の持っていき方というか、話の方向性、最終的な着地点には問題があったと思います。
「カブトムシトラップは難しい」
「弁をちゃんと作らないといけない」
「スズメバチもやってくるから大変」
など、カブトムシトラップのやり方以上に、「難しい」「できないかもしれない」といったニュアンスの言葉を多く投げかけていたからです。
話を聞いていた子どもは、見る見るしょんぼりしていきました。
子どもがマスクをしていたので、はっきりと表情は見えなかったのですが、少し涙ぐんでいたような気がします。
これは野外活動指導者として、絶対にやっていはいけないことです。
指導者は安全管理上、問題がないのであれば、「君ならできる」「やってみよう」と思わせる声かけをすべきです。
知識を伝えることだけに集中して、子どもの好奇心を打ち砕くような言葉を投げかけていてはいけません。
あくまで私の視点からですが、スタッフの話を聞いて、この子どものやる気や好奇心は完全に折られたように見えました。
あまりにも可哀想すぎます。
唯一の救いは、お父さんが最後まで「とりあえずいろいろやってみようよ」と子どもを気遣っていたことですが、あろうことか、このスタッフは「いや、お父さんが頑張るんですよ」とお父さんにまで圧をかけていました。
ありえません。
親や先生の言葉は、子どもの心に大きな影響を与える
野外活動指導者には、アウトドアや自然知識、安全管理技術など、さまざまなものが求められますが、私は指導者が持つ人間性やコミュニケーション能力が何よりも大事だと思っています。
子どもは大人が思っている以上に、大人の言葉や態度に影響を受けます。
特に親や先生と呼ばれる人たちの言葉は、子どもに「正しい」と無意識に感じさせてしまう部分があるので、どんな声かけをするかはとても重要です。
野外活動指導者もまた、この「先生」と呼ばれる職種に近いところがあります。
子どもにポジティブな感情を抱かせるのか、それともネガティブな感情を抱かせるのかは、指導者の声かけ次第です。
言い方を変えれば、子どものやる気をアップさせることもダウンさせることもできるわけです。
今回のケースでいえば、「難しい」「君にはできないかも」といった感じの言葉ばかりを投げかけられれば、子どものテンションが落ちていくのは当然といえます。
だからこそ、私たち指導者は、子どものやる気を削いだり、好奇心を失わせたりするような発言はしないように心掛けないといけません。
「難しい」かどうかは、やってみないとわからない
カブトムシトラップが「難しい」「大変」というのは、あくまでこのスタッフの価値観です。
そのため、この子どもやお父さんが、カブトムシトラップが難しいと感じるかどうかは、やってみないとわかりません。
そもそも自由研究とは、そういう難しさや失敗も含めての「研究」なのではないでしょうか?
エジソンやアインシュタインも失敗を繰り返して、そのたびに振り返り、考え、また体験することで、成功を手にしました。
ですから、指導者は「難しいから」と諦めさせるのではなく、子どもの「やってみよう」という気持ちを最大限に尊重すべきです。
自然体験活動の本質はこの体験して、振り返り、失敗した原因や新たな愛でを考え、また実行して試してみるというところにあります。
それに、おそらくこの子ども(とお父さん)は、事前にカブトムシトラップについて、ネットなどで調べていたと思います。
そこで「できそう」と思ったから、私に「カブトムシのエサは何がいいですか?」と聞いてきたのでしょう。
そうであるなら、なおのこと「きっと君ならできるよ」と必要なアドバイスをして、背中を押してあげるべきだったと思います。
まとめ
せっかくカブトムシハウスでたくさんのカブトムシと触れ合って楽しい気分になっていたところ、最後はしょんぼりさせて帰らさせてしまったので、本当に、このご家族には申し訳ないなと思います。
でも、お父さんがスタッフの話を聞いても、最後まで前向きな気持ちをもってくれたことが、唯一の救いでした。
「とりあえず、いろいろやってみよう」
その一言を子どもに言っていたのを見て、私の方が救われました。
最悪、この子どもはスタッフの話を聞いて、「自分には無理」とカブトムシトラップを仕掛けることを諦めてしまうかもしれません。
本来、野外活動指導者は、こんな気持ちを子どもに抱かせてはいけないのです。
このご家族が、夏休みにカブトムシトラップに挑戦するのか、それとも止めてしまうのかを知る方法は私にはありませんが、結果はやってみないとわからないので、ぜひチャレンジしてほしいと願うばかりです。