野外教育は、自然体験や野遊びなどを通じて人間性を伸ばしていく教育手法です。
私は市役所職員として子どもの自然体験活動の企画・運営を行なったことがきっかけで、野外教育に興味を持ちました。
アウトドア専門学校にも通い、登山やキャンプ、野遊びなどの企画を実践し、安全管理技術も身に付けました。
入学当初から卒業後は独立して、野外教育・自然体験指導者としてやっていきたいと考えていたものです。
しかし、いざフリーランスとして活動してみると、自分のやりたい方向性もあってか思うように仕事にならず、現段階で野外教育をビジネスとしてやっていくのは困難であると感じました。
しかし、まだ「この分野を仕事にできたら」との気持ちも捨てきれないでいます。
そこで今回は、野外教育で収益を上げ、生活していくためにはどうすればいいのかについて、約4年間、熟考した私なりの見解をご紹介します。
多くの野外教育指導者は、学者や研究者であってビジネスマンではない
個人や団体など、野外教育を実施している形態に関係なく、多くの野外教育指導者は学者や研究者に近いもので、ビジネスマンではありません。
私はこれまで、学校での野外活動や子ども向けキャンプなどの野外活動を行う、さまざまな個人や団体を見てきました。
彼らは自然やアウトドアに関する深い知識と技術を持ち、スタッフとしての経験も豊富です。
野外活動のスキルアップ体験会や野外教育についての会議、各種セミナーにも時間を割いて参加しています。
しかし、営業やマーケティング、価格の決め方など、ビジネスの経験や知識についてはあまり持ち合わせておらず、関心もないのかもしれません。
私は野外教育を仕事にすることに対して挫折した人間ですが、教育目的の自然体験やアウトドアも、保険営業や家電販売と同じように一つのビジネスだと考えています。
参加者は学校教育とは違い、有償・無償にしろ自由参加で参加するわけですから、業種してはサービス業です。
そのため趣味やボランティアではなく、仕事としてやっていきたいのであれば、営業・マーケティングや経営手法などビジネスの勉強は不可欠です。
顧客の行動心理を分析して、企画に落とし込むことができれば、集客や利益も変わってくるでしょう。
主催者側の「こんなことを知ってほしい」「体験させたい」ばかりが先行してはダメなのです。
自然体験活動指導者や野外教育関係者は、教育に関する勉強や話し合いばかりに目がいきがちですが、ビジネスの勉強を疎かにしていると、そもそものイベントが成り立ちません。
野外教育をビジネスとして成功させるために必要な4つの視点
野外教育指導者は自然やアウトドアに関することについてはプロですが、経営を成功させるためのビジネス分野については詳しくないことが多々あります。
そのため野外教育の同業者だけに話を聞いていても、収益性の向上はあまり期待できないでしょう。
ここでは、私になりに分析した、野外教育をビジネスとして成功させるために必要な視点について解説します。
(1) ビジネスとして野外教育を成功させたいなら、「教育」の概念を捨てる
今後もしくは現在、野外教育を仕事としてやっていきたいのであれば、一度「教育」という要素を忘れる必要があります。
小・中学生などを対象にすることが多い野外教育では、企画の段階で参加者に「こうなってほしい」という目標(ねらい)を決めます。
しかし、ビジネスにおいては、それが邪魔になることがあります。
なぜなら、ユーザー(参加者)にとって重要なのは、満足度の高い商品やサービスだからです。
極端な話、主催者側の思いなど、参加者にとってはどうでもいいことです。
確かに商品やサービスを買うとき、作り手の思いや熱量に惹かれて購入を決めることもあると思いますが、それはその商品やサービスに、ある程度の興味があっての話ではないでしょうか?
企画に対する思いや熱量の前に、参加者ニーズを満たしていないと、人は集まりません。
社会的な需要があってこそ、仕事は成立します。
(2)マーケット規模の把握
マーケティングの視点から考えた場合、野外教育のマーケットは圧倒的に少ないことに気づきます。
今でこそアウトドアはキャンプを中心に一大ブームとなりましたが、それでも実際にやっている人はそれほど多くはないと思います。
そのアウトドア中でも野外教育は、さらにマーケットが狭い分野です。
一般的な休日の過ごし方を考えたとき、映画やマンガを見る人の方が、アウトドアをする人より多くいることは容易に想像がつきます。
イメージとしては、以下のような感じではないでしょうか。
全ての余暇活動(本、映画、ゲーム、グルメ、遊園地、ショッピング、アウトドア……)
> アウトドア(登山、キャンプ、お花見、ラフティング、トレラン、スキー・スノボ……)
> > 野外教育(自然観察会、親子での昆虫採集、組織キャンプ……)
マーケット規模が広いほど、人が集めやすく、収益も上げやすくなります。
事業開始前に「どのくらいの見込み客がいるか」は、考えておかなければならない点です。
(2) 野外教育をビジネスとして成功させるなら、”エンターテインメント化”が不可欠
野外教育の分野で収益をあげたいのであれば、エンターテイメント化が不可欠だと思います。
野外教育の “エンターテイメント化” とは、教育目的よりも遊びや娯楽の要素を強めるということです。
これは自由参加型の体験学習(団体が主催する夏休みのキャンプなど)の場合であって、学校行事など強制参加による野外活動は、また別なので注意してください。
ただし、野外教育をエンターテイメント化すると、主催者側のねらいや目標を排除したプログラムが出来上がるため、本来の野外教育の趣旨からは離れることになります。
それでも私がエンターテイメントにシフトする必要があると主張するのは、参加者の多くが、教育よりも遊びや気晴らしを野外活動に求めていると感じるからです。
実際、ボルダリングやジップライン、ラフティングといった活動が人気を集めているのは、それらが主催者側が設定した目標(ねらい)に向かって進む活動ではなく、参加者が自由に楽しく遊べる、エンターテイメント活動だからです。
もし、これが教育目的のラフティングならば、たとえば以下のような主催者側の目標があるでしょう。
- 仲間と仲良くする
- 〇〇川の歴史について理解する
- 勇気を持って行動する
そうなると活動内容も、これらの目標を達成するための内容に変化します(川の歴史の座学を受けてから、ラフティング開始など)。
でも、ほとんどの場合、そんな制限はありませんよね?
基本的には自由に好きなようにできて、「あー、楽しかった」で終わるはずです。
目標(ねらい)よりも、参加者ニーズを優先した企画は、本来の野外教育の趣旨とはかけ離れてしまいますが、ビジネスとしてやっていくには娯楽の要素を強めて、エンターテイメント化するほかないと思います。
(3) 教育の要素は、世間が求めるニーズに応えた上で盛り込む
ここまで野外教育をビジネスとして成功させるには、教育の要素を捨て、エンターテイメント化する必要があるとお伝えしてきました。
こうなるともう野外教育ではなく、単なる野外活動にすぎません。
しかし、ここからがスタートです。
参加者ニーズを中心に作った自然体験プログラムに対し、 野外活動の専門家としての視点や知識を生かして、教育的要素をプログラムに盛り込むのです。
たとえば、トップミュージシャンなどはこういった手法を使っています。
自分たちのやりたい音楽や個性を優先させるのではなく、まずはファンが聞きたい音楽を届けることを意識する。
その上で、自分たちの個性を追加するという順番です。
自分たちのやりたいことをやっているだけでは、必ずしも人は付いてきません。
顧客の需要や求められていることを満たす中で、初めて個性も生きてきます。
スピッツの曲のコンセプトは「死と性」
前述したように、エンターテイメント化した野外教育では、顧客が求めていることを最優先にして、教育(個性)は後から追加します。
たとえば、私はスピッツが好きなのですが、歌詞を担当するボーカルの草野マサムネさんの曲づくりのコンセプトは「死と性」です。
あのキャッチーで爽やかな楽曲からは想像もつかないかもしれませんが、そうなのです。
スピッツファンには結構知られていますが、「ロビンソン」や「スパイダー」などの歌詞を深く読んでみると、「実は怖い歌詞かも…」ということに気づきます。
これがもしも、マサムネさんが「死と性」をダイレクトに歌詞や音で表現していたとしたら、おそらく今のような国民的人気バンドにはなっていなかったでしょう。
彼らは自分たちの曲をファンに届けやすい形に昇華させ、その上で自分たちらしさ(個性)を発揮することで、あれだけの人気を獲得したわけです。
言うなれば、これがプロです。
話は戻りますが、野外教育をビジネスとして成功させるには、まずユーザー目線に立って、世間が求めている楽しさや遊びを企画にすることが大切です。
その上で、野外教育指導者としてのプロの視点から、教育的要素を企画に落とし込んでいくことが必要なのではないでしょうか。
自然との関わり方や知識を与える教育的要素も必要
ここまでで、一度「教育」の概念を捨てて、世間の需要に合わせたプログラムを作ることがビジネスでは大事だと伝えてきました。
ここまでくるともう「野外教育」という概念も崩壊しているので、「野外教育なんて必要ないんじゃない?」と思うかもしれませんが、私はそうは思いません。
森や水、土のことなど自然の知識や人への影響は、自然のことを知っている人しか教えられないからです。
教育の要素なしのイベントで「楽しかった」「おもしろかった」で終わるのもいいかもしれませんが、誰かが「ここにスギが植林された理由は…」など言わないと、一生その参加者は「スギが植林された理由」を知らないままかもしれません。
場合によっては、参加者がその話に興味を持ち、そこから自分で調べたり、再びイベントに参加するきっかけになるかもしれないわけです。
何に対してもいえることですが、言葉にしないことには相手が興味を抱くことも、気づくこともありません。
相手の興味関心を探りながらも、知っておいてほしいことはしっかり伝えるべきかなと思います。
まとめ
多くの野外活動指導者は、自然やアウトドアの知識や経験こそ豊富ですが、ビジネスの勉強はほとんどしていないといえます。
趣味やボランティアではなく、売上や収益を考えて野外教育をするのであればビジネスの勉強は不可欠です。
今後、自由参加型のイベントで野外教育を実施し、ビジネスとして成功させたいのであれば、世間の需要に耳を傾け、「楽しさ」や「遊び」などエンターテイメント要素を強める必要があるでしょう。
ポイントになるのは、一度、参加者への目標設定も捨てて、参加者が求めるかたちでプログラムを作れるかどうかですね。
その後で、野外教育指導者としてプロの視点から教育的要素を企画に落とし込むようにしていきます。
野外活動は単に「楽しかった」で終わるよりも、適度に自然と人との関わりや道徳的なことなど教育的要素を盛り込んだ方が、参加者の心や頭も刺激され、より人生を楽しめるようになる気がします。