観光情報や人気スポット紹介でよく目にする「〇〇国立公園」。
” 国立 “という言葉が付いているだけに、何となく美しい景色や珍しい動植物が見れるんじゃないかというイメージがあるので、観光や旅行先に選ぶ人も多いものです。
観光協会や行政の公式サイトでも「国立公園に認定されました」といった言葉をよく目にしますが、そもそも国立公園って一体何がすごいのでしょう?
そこで今回は、国立公園の特徴や国定公園との違いなどについてご紹介します。
「なんかむずかしそう……」と思うかもしれませんが、簡単に分かりやすく説明するので気楽に読んでみてくださいね!
国立公園は、日本を代表する風景地!
国立公園とは?
国立公園は、日本の美しい自然や動植物、歴史、文化などを将来に残していくために国が保護・管理しているエリアです。
日本にはたくさんの風景地がありますが、「どんな風景が国立公園にふさわしいか?」「どれを国立公園にするか?」などの定義や指定方法については、” 自然公園法 ” という法律で決まっています。
自然公園法の目的をかなりざっくり説明すると、
「優れた自然の景色は全力で守るよ!みんなの健康やリフレッシュ、勉強にもどんどん役立てね。あと動植物も大切に!」
といった内容です。
また、自然公園法では国立公園のほかに、国定公園、都道府県立自然公園という名称も出てきます。
この3つ合わせて「自然公園」と呼んでいるので、国立公園も自然公園の一つになります。
遊びや体験も大歓迎!世界に通用する日本の風景地
国立公園として認められるのは、環境大臣が指定した地域だけ。
山や湖沼、田園風景など国内に同じような景色がある中で、環境大臣が世界に通用する日本屈指の風景と認めた地域だけが、国立公園の称号を与えられます。
選定の基準としては、
・規模
・自然性(人工物との割合)
・レクリエーション地としての利用のしやすさ
などがあり、国立公園に認定されるためには、いくつもの厳しい条件や数値をクリアしなければなりません。
注目すべきは、ただ単に「自然をがっちり守っていこう!」というのではなく、登山やキャンプ、シュノーケリングなど、自然と触れ合いやすさや現地までの交通の利便性も認定基準に入っているということです。
実際、国としてもたくさんの人に自然の魅力を知ってもらうために、歩道やビジターセンターなどを設置して、私たちが休暇や教育目的などで訪れやすい環境をつくっています。
そのため国立公園は、海外にも通用する日本の自然風景地でありつつ、私たちがアクティビティや動植物、歴史文化を楽しめる、国内屈指のスポットとなっているのです。
日本の国立公園の特徴と魅力
旅行会社や観光サイトでもピックアップされることが多い国立公園は、雄大な大自然や珍しい動植物が魅力のエリア。
登山やハイキング、買い物などを総合的に楽しめるだけに、年によっては3億人を超える観光客が集まります。
日本の国立公園は、海外の国立公園とは少し特徴が異なるので、ここでは主なポイントについてまとめました。
(1) 国土面積はわずか5.8%
日本には34ヶ所の国立公園が存在しているのですが(2020年1月時点)、これを国土面積で計算した場合、わずか5.8%しかありません。
国立公園は、北海道から沖縄まで全国各地に点在しているため、地図で見ると相当広い面積のように感じますが、実際は、ほんの少しの限られたエリアなのです。
(2)国がマジでおすすめする観光スポット
国立公園をひとことで言うなら、”国がマジでおすすめする観光スポット 。
国立公園は「勝手に建物を建てちゃダメ」「動植物の採取禁止」など、国が保護・管理したいと思うだけの日本トップの自然風景地です。
そして守ると同時に、国内海外を問わず「幅広い人々に自然を楽しんでほしい」とも考えています。
どれだけ国が国立公園を推しているかは、パンフレットや発行物の量で分かりますし、現在、環境省では「国立公園満喫プロジェクト」と題して、8つの国立公園を対象に訪日外国人を4,000万人にしようという計画を試みています。
お店でたとえるなら、”店長のイチオシ商品”が、国にとっては、” 国立公園 ”ということですね。
実際、私たちは国立公園と知らなくても、旅行や観光で国立公園を訪れていることがあります。
日本を象徴する名峰「富士山」は、富士箱根伊豆国立公園に属していますし、「鳴門海峡の渦潮」は瀬戸内海国立公園に含まれる人気スポットです。
国のおすすめ観光地かどうかは知らなくても、勝手に足を運んでしまうあたり、まさに誰もが感動する自然風景といえます。
(3)意外と絶滅危惧種はカバーされていない
国立公園は「珍しい動物や植物、たくさんの生き物を守るためにある」と思っている方もいるかもしれませんが、これはあくまで結果論になります。
国立公園の目的は、日本を代表する美しい自然の風景を保護することなので、生き物の種類や数はそもそも全く関係ないのです。
そのため、絶滅危惧種が10種以上生息しているエリアでも、国立公園のカバー範囲が5%程度ということも珍しくありません(環境省「国立公園の仕組み」より)
国立公園にバラエティ豊かな動植物がいる理由
では、なぜ、国立公園ではたくさんの生き物や植物を見かけるのでしょうか?
その理由は、国立公園の指定範囲がとても広大だからです。
美しい自然風景を広い面積で「国立公園」としているので、結果的に豊富な動植物が住むこと(これを生物多様性といいます)に繋がっています。
たとえば、妙高戸隠連山国立公園(新潟・長野)には、絶滅が危惧されるライチョウが生息していますし、支笏洞爺国立公園(北海道)は天然記念物のクマゲラをはじめ、ユキウサギやシマリスなど希少な動物も生息しているエリアです。
意外と絶滅危惧種がカバーされていないことに驚く国立公園ですが、広い面積を有しているため、たくさんの動植物や珍しい生き物に出会えることは間違いありません。
(4)世界遺産を含んでいる
国立公園は世界に誇る日本の風景地であるだけに、世界遺産を含む地域がいくつかあります。
世界遺産には、自然遺産と文化遺産の2種類があり、登録対象となるのは、「いつ、誰が、どこで見ても素晴らしいと感動する、人類共通で将来に残したいと思う有形無形の不動産(建物や自然など)」だけです。
2022年4月時点で、日本で世界遺産地域を含む国立公園は、自然遺産と文化遺産を合わせて計7ヶ所あります。
※ ちなみに、日本にある世界遺産の数は、自然・文化遺産を合わせて25件です(2022年4月時点)。
【自然遺産〈3ヶ所〉】
・屋久島(屋久島公立公園)
・知床(知床国立公園)
・小笠原(小笠原国立公園)
・嚴島神社(瀬戸内海国立公園)
・日光の社寺(日光国立公園)
・紀伊山地の霊場と参詣道(吉野熊野国立公園)
・富士山(富士箱根伊豆国立公園)
参考:環境省 日本の国立公園
なぜ、富士山は自然遺産じゃないの?
当時は結構話題になりましたが、富士山は自然遺産ではなく文化遺産です。
富士山が自然遺産に選ばれなかった理由としては、
- 富士山のような成層火山は、世界的に見れば他にもあること
- 登山者が多すぎて、ゴミが目立つことなど
がありました。
ただ、富士山は、昔から神の住む山として人々に崇拝され、山岳信仰をはじめ、日本最古の歌集「万葉集」や葛飾北斎の「冨嶽三十六景」、果てはゴッホなどの西洋絵画にまで深い芸術的影響を与えてきた地です。
日本文化に多大な影響をもたらした富士山は、今でも周辺には多数の神社や「三保松原」などの風景地を残していて、信仰や芸術が確実にあったということを証明しています。
そのため富士山は、単独で文化遺産に登録されたわけではなく、全25ヶ所の神社や自然風景を合わせて世界遺産となっています(これらの25ヶ所を構成資産と呼びます)。
ちなみに、自然遺産と文化遺産の両方の価値を含むものを ” 複合遺産 ” と呼びますが、日本にはまだ複合遺産はありません(2022年4月時点)。
(5) 公園内に人が住んでいる
日本の国立公園は、公園内に人が住んでいて、ご飯を食べたり、テレビを見たりして普通に暮らしています。
これには土地の所有権が関係していて、アメリカと日本の国立公園の大きな違いでもあります。
アメリカは国土が広いので、政府が公園の所有権をすべて持つことも可能なのですが、国土の狭い日本では、指定区域にすでにおじいちゃんやおばあちゃんが住んでいることも珍しくないものです。
現実的に考えて、国立公園内に住むすべての人から畑や家の所有権を奪うことは、国の財政的にキビしいので、日本はアメリカとは違ったシステムをとっています。
保護・管理したい自然風景地を民家や田んぼなどを含めて大きく囲い、人々に「動植物の採取禁止!」など規制をかけることで自然風景を維持しているのです(地域制自然公園制度)。
日本で国立公園の中に普通に人が住んでいたり、生活していたりするのはそういう仕組みからきています。
(6)時代やニーズに合わせて、国立公園を選ぶ基準は変化する
実は、国立公園を選ぶ基準は、私たちの生活や時代に合わせて変化します。
日本で最初に国立公園に指定されたのは、瀬戸内海、雲仙、霧島の3ヶ所ですが、これらは伝統的な名所や旧跡、手つかずのダイナミックな自然風景などが選ばれた理由でした。
その後は、登山やスキー、温泉といったレクリエーションも楽しめるアクセス良好な場所や、動植物が創りだす景観も国立公園として指定されるようになっていきます。
「どんな地域や景色が国立公園に指定されるのか?」については、人々の暮らしや価値観が時代とともに変化するのに合わせて、結構柔軟に対応しているんですね。
国立公園と国定公園の違い
※ 少しむずかしい話になるので、興味のない方はスルーしてください。
日本には国立公園をはじめ、いろいろな公園の種類がありますが、「国定公園」という言葉もよく聞きますよね。
「国定公園」は国立公園と同じく自然公園の一つで、自然公園法ではこのように定義されています。
国定公園 国立公園に準ずる優れた自然の風景地であつて、環境大臣が第五条第二項の規定により指定するものをいう。
自然公園法 第2条第3項
国定公園は、環境大臣が、関係都道府県の申出により、審議会の意見を聴き、区域を定めて指定する。
自然公園法 第5条第2項
少し、ややこしいですね……。
つまり「国定公園」を一言でいうなら、国立公園をトップとした場合「No.2、No.3…」の風景地ということです。
指定するのは国立公園と同じく環境大臣ですが、「国定公園」とになるためには、関係都道府県からの申出が事前に必要となります。
北海道の自然風景なら北海道庁が、長野県の自然風景なら長野県が「この地域を国定公園にしてください!」と、申し出なければならないということですね。
トップである国立公園に対して、No.2、No.3の自然風景と聞くと「たいしたことないんじゃない?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
たとえば、白山国立公園や奄美群島国立公園は、もともと「国定公園」からスタートしたエリアで、後から国立公園へと昇格した公園です。
時代が変わることで、国定公園が国立公園になることだって十分にあるのです。
【国立公園と国定公園の違い】
国立公園 | 国定公園 | |
指定条件 | 日本を代表するに足る 傑出した自然の風景地 | 国立公園に準ずる 優れた自然の風景地 |
指定する人 | 環境大臣 (管理責任者:環境省) | 環境大臣 (管理責任者:各都道府県) |
根拠となる法律 | 自然公園法 | 自然公園法 |
まとめ
国立公園は、日本を代表する優れた風景地として国が保護・管理するエリア。
県と県にまたがるほどの広範囲の公園には、世界遺産を含む地域もあり、さまざまな動植物や歴史的名所を楽しむことができます。
ただ、国立公園は、あくまで国が決めた美しい自然風景の基準であって、「素晴らしい!」と思うかどうかは人それぞれ。
国定公園にも素敵なところはありますし、何の指定もされていない場所や風景にだって私たちは感動することがあるものです。
全国34ヶ所にある国立公園は、地域ごとに個性を持っています。
険峻な山岳や岩場、貴重な動植物、ロープウェイからの展望など、各国立公園によって見どころが異なります。
「自然が好き」「歴史や神社が好き」など各々好みがあると思うので、〇〇国立公園や〇〇国定公園といった言葉に捉われず、自分の目でその景色を味わってみるといいかもしれませんね。