勉強でも遊びでも「楽しい」と感じることであれば、誰もが夢中になってやりますよね?
私は子どもの野外活動や自然体験のスタッフとして現場に立つとき、いつも「笑い」や「楽しさ」を大切にしています。
大人になっていくにしたがって「楽しい」という感情はどこか置き去りにされがちですが、物事への探究心や好奇心は「楽しい」という気持ちがあって、初めてスタートするからです。
そこで今回は、私が自然体験の指導で大切にしている「楽しい」という感情についてご紹介します。
「楽しい」という感情は、記憶力を高める
「楽しい」という感情は気持ちを明るくさせるだけでなく、学習効率も高めてくれるので、教育に必要な要素だと思っています。
誰だって楽しいときは、自然と笑顔になります。
人は笑うことで脳が活性化し、記憶力がアップすることやリラックスすることが、脳科学の研究でもわかっています。
「楽しい」という感情が心の奥底にあるだけで、ちょっと説明した生き物のことや自然のことが子どもの記憶に残りやすくなるのです。
レクリエーションゲームなどの野外活動も同じです。
他者との関わり方や上手くいった方法など、学んだ経験が身につきやすいのは、「楽しい」という気持ちを本人が感じているときです。
おそらく過去の体験を振り返ったとき、よく思い出すのは「おもしろかった」「大変だった」など、感情が強く動かされたシーンではないでしょうか?
「水が冷たくて気持ちよかった」「野外炊事で作ったカレーがシャバシャバだった」など、感情が揺さぶられた体験は、記憶にも心にも残ります。
その中でも「楽しい」というポジティブな感情は特別です。
思いきり笑ったり、楽しい気持ちになったりしているときに体験した出来事は、必死に覚えようとしなくても自然と覚えてしまいます。
「ダメ」は最小限にする努力を
子どもに何かをさせるとき、大人は「ダメ」「禁止」といった言葉はつい言ってしまいがちです。
「ダメ」は楽しい感情にストップをかけやすいので、私はなるべく最小限にしたいと思っています。
ただ、野外では安全管理上の問題もあるため、「ダメ」を完全になくすことはできません。
すべてを子どもに任せて自由にするとケガをしたり、自然に悪影響を与えたりする可能性があるからです。
では、どうしたらいいのか?
その解決策として、私は子どもに「ダメ」というとき、逆に「何ならやってもいいのか」というプラスの面も教えることを意識しています。
「これはダメ。でも、代わりにこれならいいよ」という感じです。
「ダメ」というネガティブな印象を「やってもいい」というプラスの印象に変えてあげるだけで、気持ちが前向きになり、楽しさも感じやすくなります。
たとえば、私がスタッフをしていたカブトムシとの触れ合い体験イベントでは、コロナの感染予防やカブトムシを保護する目的から、以下のようなルールが参加者に設けられていました。
- カブトムシは直接さわらない
- カブトムシは木の棒に乗せて観察する
- 木の上にいるカブトムシを無理にひっぱらない
- 戦わせない、など
子どもでも大人でも禁止事項が増えるほど、楽しくなくなっていきますよね?
でも、禁止はされていても許される範囲もあったので、私は参加者に「長い時間さわるのはダメだけど、お尻を少しツンツンするくらいはいいよ」と伝えていました。
指導者として安全管理はしながらも、参加者への「ダメ」は極力少なくしてあげるようにしています。
大切なのは、子どもが好奇心を持つきっかけを与えること
私たち大人が子どもにやるべきことは、子どもが好奇心を抱くきっかけをつくることだと思っています。
アウトドアや昆虫の知識などは、本人が「知りたい」と思えば、後からいくらでも家で調べられるし、覚えられます。
でも、その「知りたい」感情を抱くには、まず「楽しかった」という体験が必要です。
楽しかったから「もっと知りたい」「遊びたい」と思うわけなので、興味を持たないことには、子どもの知的好奇心はくすぐられません。
そのため些細なことや小さなことでもいいので、子どもが「おもしろい」「またやってみよう」と思える成功体験をつくるように心がけています。
例として、先のカブトムシの体験イベントの話をしましょう。
カブトムシの体験イベントには、「カブトムシがちょっと怖い…。でも、興味はある」という子が時々やってきました。
親子参加OKだったのでご両親もそばにいましたが、たいていカブトムシに怖さを感じている子は、木から少し距離をとってカブトムシを見ています。
でも、カブトムシを乗せる用の木の棒は手にしっかり持っているので、触りたい気持ちはあるようです。
そんなとき私は「カブトムシがちょっと怖い…」という子でも、できそうなことを考えます。
- 木の棒を使って、カブトムシに優しくさわってみる
- 私が持つ木の棒にカブトムシを乗せて、その子が持つ木の棒で受け取ってもらう
- カブトムシと距離が取れる、長めの木の棒をに交換してあげる、など
何かできないことやどうしたらいいかわからないことに直面したときは、物事を細分化して、できるだけチャレンジしやすい環境をつくるようにします。
「直接カブトムシに触るのは無理」でも、ハードルを徐々に下げていけば、いずれ行動に移せるポイントが見つかることもあります。
そうやって、子どもが「楽しさ」を感じる入り口をつくります。
どんなに小さな成功体験でも、本人に「できた」という達成感があれば、「今度は自分でやってみよう」「もう一回チャレンジしてみよう」といった好奇心が育つきっかけとなるはずです。
まとめ
「楽しい」という感情には、大きな力があります。
気持ちが明るくなるだけでなく、記憶力もアップしてくれるので、勉強でも遊びでも楽しさは大切です。
自分がやっていることを心の底から楽しんでいれば、知識も自然と覚えますし、好奇心もくすぐられるので「またやってみよう」と思ってくれはずです。
真面目にやる勉強もいいですが、ときには教えることにこだわらず、楽しい雰囲気をを大切にしてみるといいかもしれませんね。